日記 (H5355)

フェンナ語の現行の文法書は、 一貫して 「語が語を修飾する」 という関係で文構造を説明するという、 依存文法的な方針を採っています。 ただ、 このような方針を採ると、 連結辞による語 (もしくは句) の結合をどのように扱うかが大きな問題となります。 連結辞は 2 つの語を並列に結合する一方で、 「片方の語がもう一方の語を修飾する」 という関係はどちらかを主要部とする非対称な関係しか生まず、 両者の相性が悪いためです。

実際、 依存文法の学術界においても語の結合をどう扱うかについては意見が割れているようです。 依存文法を体系化した Tesnière 自身は、 語の結合を修飾とは異なる関係として位置づけ、 「語と語の関係は修飾関係のみ」 という枠組みを諦めています。 現状のフェンナ語文法書の説明もふわっとこの立場を取っていて、 連結辞による語の結合を説明する際には 「修飾」 という言葉を避けています。

一方、 連結辞を語として立てて、 結合される 2 つの語はその連結辞に係ると分析する流派もあります。 これは、 結合される語の並列性を保ちつつも修飾関係以外の関係を持ち出さないという利点があります。 また、 フェンナ語にとっては、 連結辞が修飾関係に関与する独立した語として扱われることで、 「小辞は連結辞に付随する屈折辞である」 と説明する際に、 「屈折辞は (語幹以外に) 辞に付随することもある」 という微妙な例外を設ける必要がなくなるという利点もあります。

とはいえ、 この分析方法は欠点の方が多いと感じています。 まず、 この分析方法を採ると、 結合された部分の主要部が連結辞になってしまうため、 結合されている要素の詞に関係なく、 結合された部分は名詞句でも形容詞句でもない 「連結詞句」 のようなものになってしまいます。 そのため、 結合箇所からの修飾関係を述べる際には、 例えば名詞が結合された連結部全体を名詞として扱えるように、 「結合箇所の詞は結合されている語句の詞を継承する」 のような規則を別途設ける必要があります。

また、 語順の扱いも例外になってしまいます。 節頭遷移などの遷移現象によって語順が変わる場合を除けば、 修飾が左右どちらから行われるかは、 修飾する側の性質によって決まります。 しかし、 この分析方法では、 2 つの結合要素のうち 1 つ目は左から連結辞を修飾し 2 つ目は右から修飾するため、 修飾される連結辞の方が語順を決めていることになります。 そのため、 またしても例外的な状況を認める必要があります。

以上の理由から、 結合要素が連結辞を修飾するという分析は、 全てを修飾関係で説明できるという利点を得られはしますが、 そのために例外的な規則をいくつか増やす必要があるので、 ちょっと採用しづらいです。

さて、 3 つ目の連結辞の分析方法として、 結合要素を並列に扱うのを諦めて、 結合要素のうち 1 つを (ある意味人為的に) 主要部として残りをそこに係る修飾要素として扱うというアイデアがあります。 すなわち、 〈A и́ B и́ C〉 という形であれば、 A を主要部とし、 B と C は A に係る (もしくは B は A に係って C は B に係る) と分析する方式です。 今のところ、 これがフェンナ語の連結辞を説明するのに最も向いているのではないかと考えています。

まず、 結合要素の 1 つが連結部全体の主要部となるため、 例えば名詞が連結されている場合は連結部全体を正しく名詞句として扱えます。 連結部の詞の割り当てに例外を設ける必要がありません。

さらに、 連結辞を後続する語の屈折離辞として扱う、 すなわち例えば 〈A и́ B и́ C〉 であれば A に и́ B と и́ C が係っていると見なすことにすることで、 より理論を綺麗に整理することができます。 まず、 これまでは連結辞は 「語の間に挿入される」 と見なされていたため例外的な位置づけになっていたのですが、 屈折離辞として扱うのであればもはや例外にはなりません。 また、 「連結辞は屈折離辞として被修飾語と並列に連結される機能を追加する」 と見なせば、 「A に и́ B と и́ C が係る」 という修飾関係を自然に説明できます。

以上のように、 この分析方法により、 現状の文法説明にある 「連結辞による語の結合は修飾関係とは言いづらい」 と 「連結辞は語句の間に挿入される特殊な辞である」 という 2 つの問題点を同時に解決できます。 ただしもちろん欠点もあります。 意味的に並列なはずの結合要素が文法構造的には並列にならないという点もその 1 つですが、 「修飾は意味を制限する」 という考え方に大きく違反するという点も挙げられます。 〈A и́ B〉 の形を A に и́ B が係ると分析するわけですが、 特に A と B が名詞の場合に、 и́ B によって A の意味範囲が制限されるわけではありません (むしろ並列によって意味範囲が広がっている)。 とはいえ、 これらの欠点以上の利点があると考えているので、 今後はこの分析方法を採用することにします。